労災隠しは犯罪です

労災隠しはとは

労災事故や疾病が発生した場合に事業主は被災労働者又は遺族が事業主証明を求めた場合には証明する義務と、所轄の労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出する義務があります。

 しかし、事業主は様々な動機によって、被災労働者又は遺族からの事業主証明を故意に拒否し「労働者死傷病報告」の故意に提出しない場合があります。

 そうなると被災労働者又は遺族は、「事業主証明」がない為に所轄労働基準監督署へ労災保険の請求書を提出が困難となり、被災労働者又は遺族にとっては深刻な不利益をもたらします。

 これが、いわゆる「労災かくし」です。

 仮に事業主証明が得られなかった場合であっても、所轄労働基準監督署への労災保険の請求はできますので、絶対にあきらめずに労災保険を請求しましょう。

関係する法律の条文

労働者災害補償保険法施行規則 第23条(事業主の助力等)

1 保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。

2 事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。

労働安全衛生規則 第97条(労働者死傷病報告)

1 事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

2 前項の場合において、休業の日数が四日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間における当該事実について、様式第二十四号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

労災かくしをする動機

事業者(事業主)はなぜ、労災事故をかくすのでしょうか?これには多くの理由が考えられますが、主なものとして以下の動機が考えられます。


1. 事業者(元請業者)が、労働基準監督署から調査や監督を受け、その結果、行政上の措置や処分が下されることを恐れてかくす。
2. 公共工事などの現場で労災事故が起きた場合、元請業者が、労災事故の発生を知った発注者から今後の受注に障害となるようなペナルティーが科されることを恐れてかくす。
3. 労災事故を起こした下請業者が、事故の発生を元請業者に知られると、今後の受注に悪影響を及ぼすと判断してかくす。
4. 事業者が、労災事故によって労災保険のメリット制の適用に響くためかくす
5. 無災害表彰の受賞や社内の安全評価、安全成績に影響を及ぼすためかくす
6. 下請業者が、元請の現場所長や職員の評価にかかるため、迷惑がかからないようにかくす
7. 元請業者が、下請業者に対し災害補償責任を負わせるため虚偽の報告を行う

 労災をかくす動機は、これらの動機のうち、どれか一つであるということは稀で、いくつかの動機が複合するケースが多くあります。しかし、どのような理由があるにせよ、労災かくしは犯罪であり、被災労働者又は遺族に深刻な不利益をもたらしますので、絶対に許されない犯罪です。

労災隠しは犯罪です

 事業主は、労災事故(労災疾病)が発生した場合、労働者死傷病報告を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。提出を怠るか、または虚偽の内容を報告すると、50万円以下の罰金に処せられます。つまり、労災かくしは法律違反であり犯罪行為ということになります。

関係する法律の条文

労働安全衛生法 第120条(罰則)

 次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。
5  第100条第1項又は第3項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者

労働安全衛生法 第122条(罰則)

 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第116条、第117条、第119条又は第120条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

送検事例

事例(1)
 ○○労働基準監督署は、労働安全衛生法違反の疑いで、建設会社Aと経営者○○を○○地方検察庁に書類送検した。
 経営者○○は、同社が請け負った工事現場で、同社の作業員が作業中に高さ約7.5メートルの足場から墜落し、両手首骨折の重傷を負って4日以上仕事を休んだにもかかわらず、○○労働基準監督署長に労働者死傷病報告を提出しなかった疑い。


事例(2)
 労働災害が発覚するまで「労働者死傷病報告」を提出しなかったとして○○労働基準監督署は労働安全衛生法違反の疑いで、2次下請である塗装業Bの代表○○と3次下請の塗装業Cの代表○○を○○地方検察庁に書類送検した。
 マンション新築現場で、Cの作業員が吹き付け塗装をするためのシート張りをする際、転倒し右手首を複雑骨折したが、BとCは共謀して、「受注を確保するために元請けに労災保険で迷惑をかけたくない。」として労働災害を隠蔽したもの。


事例(3)
 ○○労働基準監督署は運送会社Dと同社社長を労働災害5件を隠した労働安全衛生法違反の疑いで、○○地方検察庁に書類送検した。
 同社は荷物を扱う作業中に発生した社員の骨折など、1年1か月間で起きた5件の労働災害について、「労働者死傷病報告」を提出しなかったもの。社長は「荷主に知られたくなかった。」と供述。

事例(4)
 ○○労働基準監督署は、虚偽の「労働者死傷病報告」で労災かくしを行ったとして、労働安全衛生法違反の疑いで建設会社Eと同社の専務取締役を○○地方検察庁に書類送検した。
 同社は元請建設会社から2次下請けしたビル建設工事を行っていたが、同社労働者が同建設現場で熱湯を浴び全治3週間のやけどを負った労働災害が発生した際、「自社の資材置き場で起きた。」と同労基署に虚偽の報告をした疑い。
 工事現場での労働災害は、元請建設会社の労災保険で補償されることになっているが、同社専務は「元請けの労災保険を使うと迷惑がかかり、仕事がもらえなくなると思った。」と供述。

事例(5)
 ○○労働基準監督署は、マンションの改装工事中に労働者が骨折した労働災害があったにもかかわらず、別の工事で労働災害があったとする虚偽の「労働者死傷病報告」を提出したとして、労働安全衛生法違反の疑いで、電気工事会社Fの社長を○○地方検察庁に書類送検した。
 社長は、他県で行っていたマンション改装工事で、同社労働者がはしごから墜落し、あごなどを骨折した労働災害があったにもかかわらず、同工事現場の所轄労基署に「労働者死傷病報告」を提出せず、自社で請け負った別の工事現場で労災事故があったように装い、別の労基署に「労働者死傷病報告」を提出した疑い。
 元請けに迷惑がかからないよう、労働者の治療費を自社で負担しようとしていたが、負担が大きく、別の工事で労働災害に仕立てたもの。
 元請けの担当者2名と1次下請けの建設会社社長も黙認していたとして、同法違反の共犯で書類送検した。

労災かくしに関する通達


基発第687号
平成3年12月5日

 都道府県労働基準局長 殿


労働省労働基準局長

いわゆる労災かくしの排除について

 標記については、平成3年2月「平成3年度労働基準行政の運営について」の第3の2をもって、厳格に対処するよう指示したところであるが、これが具体的な実施については、下記によることとしたので、その的確な処理を図り、いわゆる労災かくしの排除に徹底を期されたい。


1  基本的な考え方
 労働安全衛生法が労働者の業務上の負傷等について事業者に対して所轄労働基準監督署長への報告を義務付けているのは、労働基準行政として災害発生原因等を把握し、当該事業場に対し同種災害の再発防止対策を確立させることはもとより、以後における的確な行政推進に資するためであり、労働災害の発生状況を正確に把握することは労働災害防止対策の推進にとって重要なことである。
 最近、労働災害の発生に関し、その発生事実を隠蔽するため故意に労働者死傷病報告書を提出しないもの及び虚偽の内容を記載して提出するもの(以下「労災かくし」という。)がみられるが、このような労災かくしが横行することとなれば、労働災害防止対策を重点とする労働基準行政の的確な推進をゆるがすこととなりかねず、かかる事案の排除に徹底を期する必要がある。
 このため、臨検監督、集団指導等あらゆる機会を通じ、事業者等に対し、労働者死傷病報告書の提出を適正に行うよう指導を徹底するとともに、関係部署間で十分な連携を図り、労災かくしの把握に努め、万一、労災かくしの存在が明らかとなった場合には、その事案の軽量等を的確に判断しつつ、再発防止の徹底を図るため厳正な措置を講ずるものとする。
2   事案の把握及び調査
 労災かくしは、事業者が故意に労災事故を隠蔽する意思のもとに行われるため、その事案の発見には困難を伴うものが多いが、疑いのある事案の把握及び調査に当たっては、特に次の事項に留意し、関係部署間で組織的な連携を図り、的確な処理を行うこと。 (1)  労働者死傷病報告書、休業補償給付支給請求書等関係書類の提出がなされた場合には、当該報告書の内容を点検し、必要に応じ関係書類相互間の突合を行い、災害発生状況等の記載が不自然と思われる事案の把握を行うこと。
(2)  被災労働者からの申告、情報の提供がなされた場合には、その情報に基づき、改めて労働者死傷病報告書、休業補償給付支給請求書等関係書類の提出の有無を確認し、また、その相互間の突合を行い事案の内容の把握を行うこと。
(3)  監督指導時に、出勤簿、作業日誌等関係書類の記載内容を点検し、その内容が不自然と思われる事案の把握を行うこと。
(4)  上記(1)から(3)により把握した事案については、実地調査等必要な調査を実施し、労災かくしの発見に徹底を期すること。

3  事案を発見した場合の措置
 労災かくしを行った事業場に対する措置については、次に掲げる事項に留意の上、再発防止の徹底を図るため厳正な措置を講ずること。 (1)  労災かくしを行った事業場に対しては、司法処分を含め厳正に対処すること。
(2)  事案に応じ、事業者に出頭を求め局長又は署長から警告を発するとともに、同種事案再発防止対策を講じさせる等の措置を講ずること。
(3)  本社又は支社等が他局管内に所在し、同種事案について所轄局署の注意を喚起する必要があると思われる事案、特に重大・悪質な事案等については、速やかに局へ連絡し、必要に応じ関係局間・本省とも連携を図り、情報の提供その他必要な措置を講ずること。
(4)  建設事業無災害表彰を受けた事業場にあっては、平成3年12月5日付け基発第685号「建設事業無災害表彰内規の改正について」をもって指示したところにより、当該無災害表彰状を返還させること。
(5)  労災保険のメリット制の適用を受けている事業場にあっては、メリット収支率の再計算を行い、必要に応じ、還付金の回収を行う等適正な保険料を徴収するための処理を行うこと。


基発第68号
平成13年2月8日

 都道府県労働局長 殿

厚生労働省労働基準局長

いわゆる労災かくしの排除に係る対策の一層の強化について

 いわゆる労災かくしの排除については、平成3年12月5日付け基発第687号「いわゆる労災かくしの排除について」(以下「687号通達」という。)に基づき推進してきたところであるが、近年労災かくし事案として労働安全衛生法第100条及び第120条違反で送検した件数が増加しており、このことからも労災かくし事案の増加が懸念されるところである。
 一方、第150回臨時国会における労働者災害補償保険法等の改正に係る審議においても労災かくし対策を徹底すべきであると指摘され、また「建設業等の有期事業におけるメリット制の改正にあたっては、いわゆる労災かくしの増加につながることのないように、災害発生率の確実な把握に努めるとともに、建設業の元請けの安全管理体制の強化・徹底等の措置を図るなど、制度運用に万全を尽くすこと。」との附帯決議がなされたところである。
 こうした状況を踏まえ、今般、本省において、別添1のとおり労働災害防止団体等の長に対し、別添2のとおり建設業事業者団体の長に対し、別添3のとおり事業者団体の長に対し、別添4のとおり全国社会保険労務士会連合会会長に対し、及び別添5のとおり社団法人日本医師会長に対し、労災かくしの排除についてそれぞれ文書要請を行ったところであり、これを踏まえ、都道府県労働局においても、管内のこれら団体(各支部)及び都道府県医師会に対して、同旨の文書要請を行われたい。
 また、当面、687号通達による対応を引き続き推進するとともに、下記により、労災かくしの排除に係る的確な対応を図られたい。


1  事業主、労働者等に対する周知・啓発
 本省から別途配布するポスター及びリーフレットを活用し、労働保険の年度更新のほか、集団指導、監督指導、個別指導、労働保険料の算定基礎調査・滞納整理時等あらゆる機会を通じて、労災かくしの排除に係る周知・啓発を行うこと。
 また、労働災害防止団体や事業者団体が実施する安全パトロールに、都道府県労働局又は労働基準監督署の職員が同行する場合においても、同リーフレットを活用し、事業主等に対し、労災かくしの排除に係る周知・啓発を行うこと。
 さらに、ポスターについては、都道府県労働局・労働基準監督署・公共職業安定所に掲示することはもとより、医師会、関係機関等に対しても、その掲示の依頼を行うとともに、労災かくしの排除に係る周知・啓発の協力を得るよう要請を行うこと。
2  企業トップへの啓発
 本省においては、中央労働災害防止協会が行う「安全衛生トップセミナー」において、労働基準局幹部が、労災かくしの排除について企業のトップに対して直接要請を行うこととしているところであり、各局においても、局長等局幹部が出席する同旨の会合等において、労災かくしの排除について企業トップに対して直接要請を行うこと。

別添
別添1

基発第63号
平成13年2月8日

 労働災害防止団体等の長 殿

厚生労働省労働基準局長

いわゆる労災かくしの排除について

 日頃より、労働基準行政の円滑な運営に御協力を賜っておりますことに感謝申し上げます。
 さて、労働基準行政としては、これまでも、いわゆる労災かくしの排除に努めてきたところですが、労働安全衛生法第100条に基づく「労働者死傷病報告」を所轄の労働基準監督署長に提出せず、あるいは虚偽の内容を記載して報告したとして検察庁に送検した件数がこの10年間で倍増するなど、なお労災かくしの増加が懸念されるところであります。
 一方、先般の第150回臨時国会の労働者災害補償保険法等の改正に係る審議においても労災かくし対策の徹底について指摘され、また「建設業等の有期事業におけるメリット制の改正にあたっては、いわゆる労災かくしの増加につながることのないように、災害発生率の確実な把握に努めるとともに、建設業の元請けの安全管理体制の強化・徹底等の措置を図るなど、制度運用に万全を尽くすこと。」との附帯決議がなされたところであります。
 労災かくしが横行することとなれば、労働災害防止対策を重点とする労働基準行政の的確な推進をゆるがすことにもなりかねないことから、労働基準行政としては、来年度の重点施策の一つとして、これまで以上にその指導を徹底することとしております。
 つきましては、かかる事案が発生することのないよう貴会会員に対して周知していただきますようお願いいたします。


別添2

基発第64号
平成13年2月8日

 建設業事業者団体の長 殿

厚生労働省労働基準局長

いわゆる労災かくしの排除について

 日頃より、労働基準行政の円滑な運営に御協力を賜っておりますことに感謝申し上げます。
 さて、労働基準行政としては、これまでも、いわゆる労災かくしの排除に努めてきたところですが、労働安全衛生法第100条に基づく「労働者死傷病報告」を所轄の労働基準監督署長に提出せず、あるいは虚偽の内容を記載して報告したとして検察庁に送検した件数がこの10年間で倍増するなど、なお労災かくしの増加が懸念されるところであります。
 一方、先般の第150回臨時国会の労働者災害補償保険法等の改正に係る審議においても労災かくし対策の徹底について指摘され、また「建設業等の有期事業におけるメリット制の改正にあたっては、いわゆる労災かくしの増加につながることのないように、災害発生率の確実な把握に努めるとともに、建設業の元請けの安全管理体制の強化・徹底等の措置を図るなど、制度運用に万全を尽くすこと。」との附帯決議がなされたところであります。
 労災かくしが横行することとなれば、労働災害防止対策を重点とする労働基準行政の的確な推進をゆるがすことにもなりかねないことから、労働基準行政としては、来年度の重点施策の一つとして、これまで以上にその指導を徹底することとしております。
 つきましては、かかる事案が発生することのないよう貴団体の傘下の事業場に対して周知徹底を図られますようお願いします。


別添3

基発第65号
平成13年2月8日

 事業者団体の長 殿

厚生労働省労働基準局長

いわゆる労災かくしの排除について

 日頃より、労働基準行政の円滑な運営に御協力を賜っておりますことに感謝申し上げます。
 さて、労働基準行政としては、これまでも、いわゆる労災かくしの排除に努めてきたところですが、労働安全衛生法第100条に基づく「労働者死傷病報告」を所轄の労働基準監督署長に提出せず、あるいは虚偽の内容を記載して報告したとして検察庁に送検した件数がこの10年間で倍増するなど、なお労災かくしの増加が懸念されるところであります。
 労災かくしが横行することとなれば、労働災害防止対策を重点とする労働基準行政の的確な推進をゆるがすことにもなりかねないことから、労働基準行政としては、来年度の重点施策の一つとして、これまで以上にその指導を徹底することとしております。
 つきましては、かかる事案が発生することのないよう貴団体の傘下の事業場に対して周知徹底を図られますようお願いします。


別添4

基発第66号
平成13年2月8日

 全国社会保険労務士会連合会会長 殿

厚生労働省労働基準局長

いわゆる労災かくしの排除について

 日頃より、労働基準行政の円滑な運営に御協力を賜っておりますことに感謝申し上げます。
 さて、労働基準行政としては、これまでも、いわゆる労災かくしの排除に努めてきたところですが、労働安全衛生法第100条に基づく「労働者死傷病報告」を所轄の労働基準監督署長に提出せず、あるいは虚偽の内容を記載して報告したとして検察庁に送検した件数がこの10年間で倍増するなど、なお労災かくしの増加が懸念されるところであります。
 労災かくしが横行することとなれば、労働災害防止対策を重点とする労働基準行政の的確な推進をゆるがすことにもなりかねないことから、労働基準行政としては、来年度の重点施策の一つとして、これまで以上にその指導を徹底することとしております。
 つきましては、貴会におきましても、この趣旨を御理解いただくとともに、会員社会保険労務士の方々に周知していただき、かかる事案が発生することのないよう事業場に対する周知徹底について御協力を賜りますようお願いいたします。



基監発第0726001号
基徴発第0726001号
基安計発第0726001号
基労管発第0726001号
平成14年7月26日

 都道府県労働局長 殿


厚生労働省労働基準局
   監督課長
   労働保険徴収課長
   安全衛生部計画課長
   労災補償部労災管理課長

「労災かくし」の排除に係る対策の推進について

 「労災かくし」の排除については、平成3年12月5日付け基発第687号「いわゆる労災かくしの排除について」、平成13年2月8日付け基発第68号「いわゆる労災かくしの排除に係る対策の一層の強化について」により推進してきたところであるが、依然として労災かくしが多発していることから、下記により、労災かくしの排除に係る周知・啓発等を行うこととするので、遺憾なきを期されたい。


1  ポスター及びリーフレットによる周知・啓発
 労災かくしの排除を呼びかけるポスターを局署及び関係行政機関等に掲示するとともに、医師会の協力を得て労災保険指定医療機関に掲示することにより、周知・啓発を図ること。
 また、同趣旨のリーフレットを活用し、事業者に対し、監督指導、個別指導、集団指導、安全パトロール、労働保険の年度更新に係る説明会、署の窓口指導、労働災害防止団体が主催するトップセミナー等あらゆる機会を通じ、労働者死傷病報告書の適正な提出について、周知・啓発を図ること。
 また、事業主団体等における自主的活動を促進する観点から事業主団体等が自主的に厚生労働省作成ポスターにその名称を付して印刷することを希望する場合には、これを可能とすることとしたので別添により適切に対応すること。
2  都道府県及び市町村の広報誌・紙等による周知・啓発
 都道府県及び市町村の広報誌・紙等に労災かくしの排除についての広報掲載を依頼することにより、事業者、労働者はもとより広く一般に対し、労災かくしの排除への周知・啓発を行うこと。
3  厚生労働省ホームページによる周知・啓発
 厚生労働省ホームページ上に、新たに労災かくしの排除に係る掲示を行い、(1)労災かくしは法違反であること、(2)労災かくしの排除に係る対策の概要、(3)労働災害発生時に事業者及び労働者が行うべき事項(労働者死傷病報告書の記入及び提出、労災請求手続等)、(4)労災かくしに係る送検事例の周知・啓発を行うこととしていることから、その活用を図ること。
4  労災防止指導員の活用による労災かくしの排除
 労災防止指導員は、中小規模事業場等における安全管理及び衛生管理の向上を図り、もって労働災害の防止に資するために都道府県労働局長が任命しているものであるが、労災防止指導員が事業場に対して指導を行う際に併せて労災かくしの排除についての啓発・指導を行うこととするので、労災防止指導員の活動に当たって留意すること。
5  労働基準法第87条について
 労働基準法第87条第2項に基づいて、建設業の元請負人が下請負人に対し、災害補償に係る使用者責任を負わせる事例がみられる。
 本規定は、元請負人を使用者とみなすことを基本としつつ、資力のある下請負人に対し、元請負人が書面による契約で補償を引き受けさせた場合、当該下請負人もまた使用者責任を負うこととする旨を規定したものである。
 したがって、本規定を根拠として、資力のない下請負人に使用者責任を負わせることは、その趣旨に反するばかりでなく、元請負人の保険関係に基づく保険給付の請求をさせないで下請負人に災害補償を行わせ、その結果として労災かくしにつながることも懸念される。
 このため、元請人がむやみに下請負人に対して本規定により、災害補償に係る使用者責任を負わせることがないよう、集団指導等の機会をとらえて指導を行うこととすること。
6  医療機関に対する周知・啓発
 医療機関に対し、業務上の災害により被災した場合には、労働者災害補償保険の請求について労働基準監督署に相談することを被災労働者に勧奨するよう、労災診療協議会等の機会をとらえ、周知・啓発すること。
7  事業者団体、都道府県社会保険労務士会等への要請
 事業者団体等に対し、その構成員である事業者を対象とした文書の発出、機関紙への記事の掲載、総会等各種会合における説明等により、労災かくしの排除に係る周知・啓発のための取組を行うことを要請すること。
 また、各都道府県社会保険労務士会に対し、会員社会保険労務士が、労災かくしの排除の重要性について関係事業場の理解を得るよう協力を要請すること。
8  発注機関への働きかけ
 公共建設工事における労災かくしを排除するために、公共建設工事の発注機関に対し、労災かくしに対する基本的考え方を説明し、理解を求めた上で、発注機関として、労災かくしの排除について工事施工業者を指導するよう働きかけを行うこと。


5年保存

基発第0305001号
平成20年3月5日



都道府県労働局長 殿



厚生労働省労働基準局長 
( 公 印 省 略 )




「労災かくし」の排除に係る対策の一層の推進について

 「労災かくし」は、労働災害の発生状況を正確に把握することを妨げ労働災害防止対策の推進に支障を来すとともに、被災労働者の適正な保護が図られないことになるものである。
 「労災かくし」の排除については、「いわゆる労災かくしの排除について」(平成3年12月5日付け基発第687号)及び「いわゆる労災かくしの排除に係る対策の一層の強化について」(平成13年2月8日付け基発第68号)等により推進してきたところであるが、第163回特別国会の衆議院厚生労働委員会及び参議院厚生労働委員会における「労働安全衛生法等の一部を改正する法律案」の審議に当たって、「建設業等の有期事業におけるメリット制の改正に当たっては、いわゆる労災かくしの増加につながることのないよう建設業関係者から意見を聴く場を設けるなど、災害発生率の確実な把握と安全の措置を図るとともに、建設業の元請けの安全管理体制の強化・徹底等の措置を図り、労災かくしを行った事業場に対しては司法処分を含め厳正に対処すること。」との附帯決議がなされた。
 こうした状況を踏まえ、「労災かくし」の排除については、新たに下記の対策を実施することとしたので、的確な対応を図られたい。
 なお、下記1の対策における労災保険給付の請求の勧奨に係る社会保険事務局からの情報提供については、社会保険庁と調整の上で実施することとしているので、念のため申し添える。




1  労災保険給付の請求の勧奨等
 健康保険給付請求者のうち、健康保険法(大正11年法律第70号)第55条第1項に基づき、労災保険法(昭和22年法律第50号)により給付を受けることができると考えられるものとして健康保険法の保険給付について不支給(返還)決定を受けた者(以下「健康保険不支給決定者」という。)に係る情報の提供を各地方社会保険事務局から受け、その中から既に労災保険給付の請求を行っている者を除いた上で、それらの者に対して積極的に労災保険制度を周知し、労災保険給付の請求を勧奨すること。
 なお、社会保険庁が実施する健康保険関係業務は、平成20年10月に全国健康保険協会に移管される予定であるが、その後の取扱いについては追って連絡することとしている。
 その上で、健康保険不支給決定者への労災保険給付の請求の勧奨を通じて「労災かくし」が疑われる事案を把握した場合には、当該事業主に対して適切な指導を行うこと。
 労災保険給付の請求の勧奨等に係る具体的な実施方法等については、別添1の「健康保険不支給決定者に対する労災保険給付の請求に係る勧奨等の実施について」によること。


2  「労災報告の適正化に関する地方懇談会」の開催等
 別添2の「労災報告の適正化に関する地方懇談会」開催要綱に基づき、「労災報告の適正化に関する地方懇談会」を開催する等により、建設業、製造業等の関係者から、「労災かくし」対策に係る意見等を聴取すること。
 なお、当該地方懇談会については、各労働局の実情に応じ、地方労働審議会等各種会議の場を活用し、効率的な運営に努めること。
別添1及び2 略