遺族補償給付は、労働者が業務災害により死亡した場合に遺族に支給され、遺族給付は労働者が通勤災害により死亡した場合、その遺族に対し支給されます。なお、船舶・航空機に乗っていた労働者が沈没・墜落などの事故により行方不明となり、その生死が3か月間わからない場合には、労災保険法上、行方不明になった日に死亡したものと推定されます。遺族補償給付又は遺族給付は、原則として年金の支給となりますが、遺族が死亡労働者に扶養されていなかった場合のように、年金を受ける資格のないときは一時金の支給となります。
遺族補償年金又は遺族年金は、遺族の数に応じ次表に掲げる額の年金とされ、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の6回に分けて支払われます。
遺族の数
|
年金額
|
1人 |
給付基礎日額の153日分
ただし、その遺族が55歳以上の妻又は一定の障害の状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分 |
2人 |
給付基礎日額の201日分 |
3人 |
給付基礎日額の223日分 |
4人以上 |
給付基礎日額の245日分 |
それぞれの年金の対象となる遺族は、年金を受ける権利を有する受給権者と、受給権者となることのできる資格を有する受給資格者とに分けられます。
受給資格者
遺族補償年金又は遺族年金の受給資格者となるのは、労働者の死亡の当時その方の収入によって生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹です。
なお、「労働者の死亡の当時、労働者の収入によって生計を維持していた」とは、もっぱら又は主として労働者の収入によって生計を維持されていることを要せず、労働者の収入によって生計の一部を維持していれば足り、いわゆる共稼ぎの場合もこれに含まれます。
ただし、妻以外の遺族にあっては、一定の高齢又は年少であるか、あるいは一定の障害の状態にあることが必要です。
すなわち、年齢については労働者の死亡の当時、夫や父母、祖父母にあっては55歳以上、子や孫にあっては18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間、兄弟姉妹にあっては18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間又は55歳以上でなければなりませんが、対象年齢には該当しなくても、障害等級第5級以上の身体障害若しくはこれと同程度に労働が制限される状態にあれば、受給資格者になります。
遺族補償年金又は遺族年金の受給資格者となる遺族のうち、配偶者については事実上婚姻関係と同様の事情にある内縁関係も含まれ、また、労働者の死亡の当時に胎児であった子は生まれたときから受給資格者となります。
受給権者
遺族補償年金は、受給資格者の全員がそれぞれ受けられるわけではなく、そのうち最先順位者だけが受けることになります。つまり、最先順位者が受給権者となるわけです。受給権者となる順位は次のとおりです。
(1) 妻・60歳以上又は一定障害の夫
(2) 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子又は一定障害の子
(3) 60歳以上又は一定障害の父母
(4) 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある孫又は一定障害の孫
(5) 60歳以上又は一定障害の祖父母
(6) 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある兄弟姉妹、若しくは60歳以上の兄弟姉妹又は一定障害の兄弟姉妹
(7) 55歳以上60歳末満の夫
(8) 55歳以上60歳末満の父母
(9) 55歳以上60歳末満の祖父母
(10) 55歳以上60歳末満の兄弟柿妹
最先順位者が2人以上あるときは、その全員がそれぞれ受給権者となります。
•一定の障害とは、障害等級第5級以上の身体障害をいいます。
•配偶者の場合、婚姻の届出をしていなくても、事実上婚姻関係と同様の事情にあった方も含まれます。また、労働者の死亡の当時、 胎児であった子は、生まれたときから受給権者となります。
•最先順位者が死亡や再婚などで受給権を失うと、その次の順位の方が受給権者となります(これを「転給」といいます。)。
•(7)~(10)の55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹は、受給権者となっても、60歳になるまでは年金の支給は停止されます(これを「若年停止」といいます。)。
労働者が死亡した直後は、いろいろと一時的な出費が必要となることが多いものです。そこで、障害補償年金の場合と同様、受給権者が希望すれば、遺族補償年金又は遺族年金をまとめて前払いする前払一時金の制度が設けられています。
遺族補償年金又は遺族年金を受給することとなった遺族は、1回に限り、年金の前払いを受けることが出来ます。
また、若年停止により年金の支給が停止されている方についても、前払いを受けることが出来ます。
前払一時金の額は、給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1,000日分の額のうち遺族補償年金又は遺族年金の受給権者が選択する額です。
なお、前払一時金が支給されると遺族補償年金又は遺族年金は、各月分の額(1年たってからの分は年5分の単利で割り引いた額)の合計額が、前払一時金に達するまでの間支給停止されます。
前払一時金の請求は、遺族補償年金又は遺族年金の請求と同時に行うのが原則ですが、遺族補償年金又は遺族年金の支給決定の通知のあった日の翌日から1年以内であれば、遺族補償年金又は遺族年金の請求をした後においても行うことが認められます。
前払一時金の請求は、同一の死亡労働者に関し1回しか認められていませんが、失権した先順位者が前払一時金の支給を請求していない場合には、いわゆる*
転給者も前払一時金を請求することができます。
なお、前払一時金の支給の請求を、遺族補償年金又は遺族年金を請求した後に行う場合には、給付基礎日額の1,000日分から支給済みの年金額を控除した額の範囲内で前払一時金の額を選択しなければならないことになっています。
前払一時金が支給されると遺族補償年金又は遺族年金は一定期間支給停止されます。
支給停止期間は、遺族補償年金又は遺族年金の毎月分の額(1年たってからの分は年5分の単利で割り引いた額)の合計額が、前払一時金の額に達するまでの間とされています。
前払一時金の支給を受けた受給権者が失権し、次順位者が年金の受給権者となった場合であっても、まだ支給停止期間が満了していないときには、新たに受給権者となった方についても年金の支給停止がつづきます。
遺族補償一時金は、労働者が業務上の事由により死亡した場合、遺族一時金は、労働者が通勤災害により死亡した場合で、労働者の死亡の当時、遺族補償年金又は遺族年金の受給資格者がないときには給付基礎日額の1,000日分が支給されます。また、遺族補償年金又は遺族年金の受給権者が最後順位者まですべて失権した場合に、受給権者であった遺族の全員に対して支払われた年金の額及び遺族補償年金前払一時金又は遺族年金前払一時金の額の合計額が給付基礎日額の
1,000日分に達していないときには、その給付基礎日額の1,000日分とその合計額との差額が支給されます。
なお、遺族補償一時金又は遺族一時金の受給権者が2人以上いるときは、等分した額がそれぞれの受給権者の受給額となります。
遺族補償一時金又は遺族一時金の受給権者は、次の方のうち最先順位にある方((2)と(3)については、子・父母・孫・祖父母の順位)です。
(1) 配偶者
(2) 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持されていた子・父母・孫・祖父母
(3) その他の子・父母・孫・祖父母
(4) 兄弟姉妹
遺族特別支給金は、労働者の死亡当時の最先順位の遺族補償年金若しくは遺族年金の受給資格者又は労働者の死亡当時に遺族補償年金若しくは遺族年金の受給資格者がないときに支給される遺族補償一時金若しくは遺族一時金の受給権者に支給され、その額は、300万円(遺族特別支給金の支給を受けることができる遺族が2人以上ある場合には、300万円をその人数で除して得た額)です。
遺族特別年金
ボーナスなどの特別給与を算定の基礎とする遺族特別年金は、遺族補償年金又は遺族年金の受給権者に対して支給され、その額は、次の表に掲げるとおりです。ただし、遺族補償年金又は遺族年金の受給権者が2人以上あるときは、次の表に掲げる額を受給権者の人数で除して得た額が、各受給権者の受給額となります。
遺族の数
|
年金額
|
1人 |
算定基礎日額の153日分
ただし、その遺族が55歳以上の妻又は一定の障害の状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分 |
2人 |
算定基礎日額の201日分 |
3人 |
算定基礎日額の223日分 |
4人以上 |
算定基礎日額の245日分 |
遣族特別年金は、遺族補償年金又は遺族年金が受給権者の所在不明又は若年により支給停止とされている間は、同様に支給が停止されます。
なお、遺族特別年金については、前払一時金の制度は設けられていないので、遺族補償年金又は遺族年金について前払一時金が支払われたためにその支給が停止された場合であっても、遺族特別年金の支給が停止されることはありません。
遺族特別一時金
ボーナスなどの特別給与を算定の基礎とする遺族特別一時金は、遺族補償一時金又は遺族一時金の受給権者に対して支給され、その額は、次のとおりです。
1.労働者の死亡の当時、遺族補償年金又は遺族年金の受給資格者がないとき…算定基礎日額の1,000日分
2.遺族補償年金又は遺族年金の受給権者がすべて失権した場合に、受給権者であった遺族の全員に対して支払われた遺族特別年金の合計額(当該支給された遺族特別年金を遺族補償年金とみなして厚生労働大臣が定める換算率を乗じた額とします。)が算定基礎日額の1,000日分に達していないとき…算定基礎日額の1,000日分とその合計額との差額
なお、遺族補償一時金又は遺族一時金の受給権者が2人以上あるときは、等分した額がそれぞれの受給権者の受給額となります。
労災就学等援護費の支給
被災労働者の子弟又は、その遺族の中には、進学をあきらめ又は学業を中途で放棄せざるをえない場合が多いため、学資等の支弁が困難であると認められる者に対して労災就学援護費を支給。
対象者・・・障害等級1級~3級の障害(補償)年金、遺族(補償)年金、傷病(補償)年金を受ける者又はその家族
労災就学等援護費の額 小学生1人月額12,000円、
中学生1人月額16,000円、
高校生1人月額16,000円、
大学生1人月額39,000円
労災就労保育援護費の支給
被災労働者やその遺族の就労状況を考慮し、未就学の児童を保育所、幼稚園等に預け、その費用を援護する必要があると認められる場合に支給。
対象者・・・障害等級1級~3級の障害(補償)年金、遺族(補償)年金、傷病(補償)年金を受ける者又はその家族
労災就学等援護費の額
児童1人月額12,000円