業務災害

労災保険の保険給付の種類は、

①業務災害に関する保険給付、

②通勤災害に関する保険給付、

③二次健康診断等給付と区分されています。

 労災保険では、労働者が被った災害が業務災害であるか否か、通勤災害であるか否かの認定が重要です。

業務災害の定義

① 業務災害とは、労働者の業務上の事由による負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。

② ①のうち、業務上の疾病の範囲は、労働基準法施行規則別表1の2に挙げられています。

③ 業務災害に関する保険給付は、基本的に労働基準法第八章の災害補償に定められた事業主責任を強制保険制度で担保したものです。

 その為、仮に事業主が労災保険に未加入であっても労働者は労災保険を請求し保険給付を受ける権利があります。

業務災害の認定

業務災害と認められる為には、①業務遂行性、②業務起因性が必要とされます。

①業務遂行性

労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態

②業務起因性

業務と傷病等との間に相当因果関係

 

事業主の支配・管理下で業務に従事している場合

 これは、所定労働時間内や残業時間内に事業場内において業務に従事している場合が該当します。

 この場合の災害は、被災労働者の業務としての行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因となって発生するものと考えられるので、特段の事情がない限り、業務災害と認められます。

 なお、次の場合には業務災害とは認められません。
(1)  労働者が就業中に私用(私的行為)を行い、又は業務を逸脱する恣意的行為をしていて、それらが原因となって災害を被った場合
(2)  労働者が故意に災害を発生させた場合
(3)  労働者が個人的なうらみなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
(4)  地震、台風など天災地変によって被災した場合(ただし、事業場の立地条件や作業条件・作業環境などにより、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情があるときは、業務災害と認められます。)

事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合

 これは、昼休みや就業時間前後に事業場施設内にいる場合が該当します。

 出社して事業場施設内にいる限り、労働契約に基づき事業主の支配管理下にあると認められますが、休憩時間や就業前後は実際に業務をしているわけではないので、行為そのものは私的行為です。

 この場合、私的な行為によって発生した災害は業務災害とは認められませんが、事業場の施設・設備や管理状況などがもとで発生した災害は業務災害となります。

 なお、用便等の生理的行為などについては、事業主の支配下にあることに伴う行為として業務に付随する行為として取扱われますので、この場合には就業中の災害に準じて、業務災害として認められない場合を除いて、施設の管理状況等に起因して災害が発生したかというものと関係なく業務災害となります。

事業主の支配にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合


 これは、出張や社用での事業場施設外で業務に従事している場合が該当し、事業主の管理下を離れてはいるものの、労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をしているわけですから事業主の支配下にあり、仕事の場所はどこであっても、積極的な私的行為を行うなど特段の事業がない限り、一般的に業務に従事していることから、業務災害について特に否定すべき事情がない限り、一般的には業務災害と認められます。

業務災害

疾病については、業務との間に相当因果関係が認められる場合(業務上疾病)に労災保険給付の対象となります。

 業務上疾病とは、労働者が事業主の支配下にある状態において発症した疾病のことを意味しているわけではなく、事業主の支配下にある状態において有害因子にばく露したことによって発症した疾病のことをいいます。

 例えば、労働者が就業時間中に脳出血を発症したとしても、その発症原因に足り得る業務上の理由が認められない限り、業務と疾病との間には相当因果関係は成立しません。一方、就業時間外における発症であって、業務上の有害因子にばく露したことによって発症したものと認められれば業務と疾病との間に相当因果関係は成立し、業務上疾病と認められます。

 一般的に、労働者に発症した疾病について、次の3要件が満たされる場合には,原則として業務上疾病と認めれられます。

1 労働の場に有害因子が存在していること

 この場合の有害因子は、業務に内在する有害な物理的因子、化学物質、身体に過度の負担のかかる作業態様、病原体等の諸因子を指します。

2 健康障害を起こしうるほどの有害因子にばく露したこと

 健康障害は、有害因子へのばく露によって起こりますが、当該健康障害を起こすのに足りるばく露があったかどうかが重要です。

 このようなばく露の程度は、基本的には、ばく露の濃度等とばく露期間によって決まりますが、どのような形態でばく露を受けたかによっても左右されるので、これを含めたばく露条件の把握が必要となります。

3 発症の経過及び病態

 業務上の疾病は、労働者が業務に内在する有害因子に接触し、又はこれが侵入することによって起こるものなので、少なくともその有害因子へのばく露開始後に発症したものでなければならないことは当然です。

 しかし、業務上疾病の中には、有害因子へのばく露後、短期間で発症するものもあれば、相当長期間の潜伏期間を経て発症するものもあり、発症の時期はばく露した有害因子の性質、ばく露条件等によって異なります。

 したがって、発症の時期は、有害因子へのばく露中又はその直後のみに限定されるものではなく、有害因子の物質、ばく露条件等からみて医学的に妥当なものでなければなりません。

労働基準法施行規則別表1の2

一 業務上の負傷に起因する疾病

二 物理的因子による次に掲げる疾病

 1 紫外線にさらされる業務による前眼部疾患又は皮膚疾患

 2 赤外線にさらされる業務による網膜火傷、白内障等の眼疾患又は皮膚疾患

 3 レーザー光線にさらされる業務による網膜火傷等の眼疾患又は皮膚疾患

 4 マイクロ波にさらされる業務による白内障等の眼疾患

 5 電離放射線にさらされる業務による急性放射線症、皮膚潰瘍等の放射線皮膚障害、白内障等の放射線眼疾患、放射線肺炎、再生不良性貧血等の造血器障害、骨壊死その他の放射線障害

 6 高圧室内作業又は潜水作業に係る業務による潜函病又は潜水病

 7 気圧の低い場所における業務による高山病又は航空減圧症

 8 暑熱な場所における業務による熱中症

 9 高熱物体を取り扱う業務による熱傷

 10 寒冷な場所における業務又は低温物体を取り扱う業務による凍傷

 11 著しい騒音を発する場所における業務による難聴等の耳の疾患

 12 超音波にさらされる業務による手指等の組織壊死

 13 1から12までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他物理的因子にさらされる業務に起因することの明らかな疾病

三 身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する次に掲げる疾病

 1 重激な業務による筋肉、腱、骨若しくは関節の疾患又は内臓脱
 
 2 重量物を取り扱う業務、腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務その他腰部に過度の負担のかかる業務による腰痛

 3 さく岩機、鋲打ち機、チェーンソー等の機械器具の使用により身体に振動を与える業務による手指、前腕等の末梢循環障害、末梢神経障害又は運動器障害

 4 電子計算機への入力を反復して行う業務その他上肢に過度の負担のかかる業務による後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕又は手指の運動器障害

 5 1から4までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に起因することの明らかな疾病

四 化学物質等による次に掲げる疾病

 1 厚生労働大臣の指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)にさらされる業務による疾病であつて、厚生労働大臣が定めるもの

 2 弗素樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂の熱分解生成物にさらされる業務による眼粘膜の炎症又は気道粘膜の炎症等の呼吸器疾患

 3 すす、鉱物油、うるし、タール、セメント、アミン系の樹脂硬化剤等にさらされる業務による皮膚疾患

 4 蛋白分解酵素にさらされる業務による皮膚炎、結膜炎又は鼻炎、気管支喘息等の呼吸器疾患

 5 木材の粉じん、獣毛のじんあい等を飛散する場所における業務又は抗生物質等にさらされる業務によるアレルギー性の鼻炎、気管支喘息等の呼吸器疾患

 6 落綿等の粉じんを飛散する場所における業務による呼吸器疾患

 7 石綿にさらされる業務による良性石綿胸水又はびまん性胸膜肥厚

 8 空気中の酸素濃度の低い場所における業務による酸素欠乏症

 9 1から8までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他化学物質等にさらされる業務に起因することの明らかな疾病

五 粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法(昭和三十五年法律第三十号)に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則(昭和三十五年労働省令第六号)第一条各号に掲げる疾病

六 細菌、ウイルス等の病原体による次に掲げる疾病

 1 患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務による伝染性疾患

 2 動物若しくはその死体、獣毛、革その他動物性の物又はぼろ等の古物を取り扱う業務によるブルセラ症、炭疽病等の伝染性疾患

 3 湿潤地における業務によるワイル病等のレプトスピラ症

 4 屋外における業務による恙虫病

 5 1から4までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に起因することの明らかな疾病

七 がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における業務による次に掲げる疾病

 1 ベンジジンにさらされる業務による尿路系腫瘍

 2 ベーターナフチルアミンにさらされる業務による尿路系腫瘍

 3 四―アミノジフェニルにさらされる業務による尿路系腫瘍

 4 四―ニトロジフェニルにさらされる業務による尿路系腫瘍

 5 ビス(クロロメチル)エーテルにさらされる業務による肺がん

 6 ベンゾトリクロライドにさらされる業務による肺がん

 7 石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫

 8 ベンゼンにさらされる業務による白血病

 9 塩化ビニルにさらされる業務による肝血管肉腫又は肝細胞がん

 10 電離放射線にさらされる業務による白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉腫、甲状腺
がん、多発性骨髄腫又は非ホジキンリンパ腫

 11 オーラミンを製造する工程における業務による尿路系腫瘍

 12 マゼンタを製造する工程における業務による尿路系腫瘍

 13 コークス又は発生炉ガスを製造する工程における業務による肺がん

 14 クロム酸塩又は重クロム酸塩を製造する工程における業務による肺がん又は上気道のがん

 15 ニッケルの製錬又は精錬を行う工程における業務による肺がん又は上気道のがん

 16 砒素を含有する鉱石を原料として金属の製錬若しくは精錬を行う工程又は無機砒素化合物を製造する工程における業務による肺がん又は皮膚がん

 17 すす、鉱物油、タール、ピッチ、アスファルト又はパラフィンにさらされる業務による皮膚がん

 18 1から17までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他がん原性物質若しくはがん原性因子にさらされる業務又はがん原性工程における業務に起因することの明らかな疾病

八 長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病に付随する疾病

九 人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病

十 前各号に掲げるもののほか、厚生労働大臣の指定する疾病
十一 その他業務に起因することの明らかな疾病