労働基準法では、一日8時間、一週間に40時間を超えて働く場合は残業時間となります。
この残業時間が著しく長時間に至ると、深刻な健康障害の引き金となります。場合によっては死に至ることもあります。これがいわゆる「過労死」と呼ばれているものです。
ここでは、これらの「過労死・脳心臓疾患」の労災認定について紹介いたします。
この残業時間が著しく長時間に至ると、深刻な健康障害の引き金となります。場合によっては死に至ることもあります。これがいわゆる「過労死」と呼ばれているものです。
ここでは、これらの「過労死・脳心臓疾患」の労災認定について紹介いたします。
① 「認定基準」 ⇒ 業務上の疾病と労災認定できる要件を示したもの
② 「脳・心臓疾患の認定基準」 ⇒ 脳・心臓疾患を労災認定する上で基本的考え方、疾病対象、認定要件を示したもの
基本的な考え方 |
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脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる動脈硬化、動脈瘤などの血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等による要因により形成され、それが徐々に進行及び増悪して、あるとき突然に発症するものです。 しかし、仕事が特に過重であったために血管病変等が著しく増悪し、その結果、脳・心臓疾患が発症することがあります。 このような場合には、仕事がその発症に当たって、相対的に有力な原因となったものとして、労災補償の対象となります。 |
対象疾病 |
【脳血管疾患】 ①脳内出血(脳出血) ②くも膜下出血 ③脳梗塞 ④高血圧性脳症 |
【虚血性心疾患等】 ①心筋梗塞 ②狭心症 ③心停止(心臓性突然死を含む。) ④解離性大動脈瘤 |
認定要件 |
業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務上の疾病として取り扱われます。 |
異常な出来事 |
発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと |
短期間の過重業務 |
発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと |
長期間の過重業務 |
発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと |
①「業務による明らかな」 ⇒ 発症の有力な原因が仕事によるものであることがはっきり していることを言います。
②「過重負荷」 ⇒ 医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に見とめられる負荷を言います。
【語句の説明】
発症の基礎となる血管病変等 ⇒ もともと本人が持っている動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変化等の基礎的病態のことです。
自然経過 ⇒ 加齢、食生活、生活環境等の日常生活諸々の要因により血管病変等が徐々に悪化していくことです。
著しく増悪させ得る ⇒ 血管病変等の悪化が著しいことを言います。
極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態 例えば: 業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与し、著しい精神的負荷を受けた場合などが考えられます。
緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態 例えば: 事故の発生に伴って、救助活動や事故処理に携わり、著しい身体的負荷を受けた場合などが考えられます。
急激で著しい作業環境の変化 例えば: 野外作業中、極めて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害される状態や特に温度差のある場所への頻回な出入りなどが考えられます。
1. 通常の業務遂行過程においては遭遇することがまれな事故又は災害等で、その程度が甚大であったか
2. 気温の上昇又は低下等の作業環境の変化が急激で著しいものであったか等について検討し、これらの出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。
「発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと」とは?
特に過重な業務
日常業務〈通常の所定労働時間内の所定業務内容をいいます。〉に比較して、特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる仕事をいいます。
評価期間
発症前おおむね1週間
過重負荷の有無の判断
特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等具体的な負荷要因を考慮し、同僚労働者又は、同種労働者(以下「同僚等」といいます。)にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。
同僚等
脳・心臓疾患を発症した労働者と同程度の年齢、経験等を有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者をいいます。
業務と発症との時間的関連性を考慮して、
1. 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であるか否か
2. 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合であっても、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合には、業務と発症との関連性があると考えられるのでこの間の業務が特に過重であるか否か を判断します。
a.労働時間
b.不規則な勤務
c.拘束時間の長い勤務
d.出張の多い業務
e.交替制勤務・深夜勤務
f.作業環境(温度環境・騒音・時差)
g.精神的緊張を伴う業務
負荷の程度を評価する視点は(表1),(表2)のとおりです。
「発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと」とは?
疲労の蓄積
恒常的な長時間労働等の負荷が長時間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく憎悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがあります。
このことから、発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては、発症前の一定期間の就労実態等を考察し、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断します。
評価期間
発症前おおむね6ヶ月間
過重負荷の有無の判断
著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等具体的な負荷要因を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。
業務の過重性の具体的な評価に当たっては、疲労の蓄積の観点から、労働時間のほか、1.不規則な勤務、2.拘束時間の長い勤務、3.出張の多い業務、4.交替制勤務・深夜勤務、5.作業環境(温度環境・騒音・時差)、6.精神的緊張を伴う業務(表1及び表2)の負荷要因について十分検討することとなっています。
疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、
1. 発症前1か月間ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価できること
2.おおむね45時間を超えて時間外労働が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価できること
3. 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること
を踏まえて判断します。
注)1. 1.の場合の「発症前1か月間ないし6か月間」は、発症前1か月間、発症前2か月間、発症前3か月間、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のすべての期間をいいます。
2. 3.の場合の「発症前2か月間ないし6か月間」は、発症前2か月間、発症前3か月前、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のいずれかの期間をいいます。
注)1. 1.の場合の「発症前1か月間ないし6か月間」は、発症前1か月間、発症前2か月間、発症前3か月間、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のすべての期間をいいます。
注)2. 3.の場合の「発症前2か月間ないし6か月間」は、発症前2か月間、発症前3か月前、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のいずれかの期間をいいます。
発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと
● 極度の緊張、興奮、恐怖、驚愕 等の強度の精神的負荷を引き起 こす突発的又は予測困難な異常 な事態
● 緊急に強度の身体的負荷を強 いられる突発的又は予測困難な異常な事態
● 急激で著しい作業環境の変化
発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと
① 発症直前から前日までの間に 特に過度の長時間労働が認めら れること
② 発症前おおむね1週間以内に継続した長時間労働が認められること
③ 休日が確保されていないこと
【勤務形態等】 不規則な勤務 、拘束時間の長い勤務 、出張の多い業務 、交替制勤務・深夜勤務
【作業環境】 温度環境 、騒音、時差
【精神的緊張】 日常的に精神的緊張を伴う業務 、発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事
発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと
① 発症前1~6ヶ月間平均で月 45時間以内の時間外労働は、 発症との関連性は弱い
② 月45時間を超えて長くなるほど関連性は強まる
③ 発症前1ヶ月間100時間又は2~6ヶ月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い
【勤務形態等】 不規則な勤務 、拘束時間の長い勤務 、出張の多い業務 、交替制勤務・深夜勤務
【作業環境】 温度環境 、騒音、時差
【精神的緊張】 日常的に精神的緊張を伴う業務 、発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事
負荷要因 | 負荷の程度を評価する視点 |
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労働時間 ※「短期間の過重業務」についてのみです。 |
発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められるか、発症前おおむね1週間以内に接続した長時間労働が認められるか、休日が確保されていたか等 |
不規則な勤務 | 予定された業務のスケジュールの変更の頻度・程度、事前の通知状況、予測の度合、業務内容の変更の程度等 |
拘束時間の長い勤務 | 拘束時間数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、業務内容、休憩・仮眠時間数、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等) |
出張の多い業務 | 出張中の業務内容、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、宿泊の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張による疲労の回復状況等 |
交替制勤務・深夜勤務 | 勤務シフトの変更の度合、勤務と次の勤務までの時間、交替制勤務における深夜時間帯の頻度等 |
作業環境・温度環境 | 寒冷の程度、防寒衣類の着用の状況、一連続作業時間中の採暖の状況、暑熱と寒冷との交互のばく露の状況、激しい温度差がある場所への出入りの頻度等 |
作業環境・騒音 | おおむね80dbを超える騒音の頻度、そのばく露時間・期間、防音保護具の着用の状況等 |
作業環境・時差 | 5時間を超える時差の頻度、時差を伴う移動の頻度等 |
具体的業務 |
負荷の程度を評価する視点 |
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常に自分あるいは他人の生命、財産が脅かされる危険性を有する業務 | 危険性の度合、業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援、予想される被害の程度等 |
危険回避責任がある業務 | 危険性の度合、業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援、予想される被害の程度等 |
人命や人の一生を左右しかねない重大な判断や処置が求められる業務 | 危険性の度合、業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援、予想される被害の程度等 |
極めて危険な物質を取り扱う業務 | 危険性の度合、業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援、予想される被害の程度等 |
会社に多大な損失をもたらし得るような重大な責任のある業務 | 危険性の度合、業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援、予想される被害の程度等 |
過大なノルマがある業務 | ノルマの内容、困難性、強制性、ペナルティの有無等 業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援等" |
決められた時間(納期等)どおりに遂行しなければならないような困難な業務 | 阻害要因の大きさ、達成の困難性、ペナルティの有無、納期等の変更の可能性等 業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援等" |
顧客との大きなトラブルや複雑な労使紛争の処理等を担当する業務 | 顧客の位置付け、損害の程度、労使紛争の解決の困難性等 業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援等 |
周囲の理解や支援のない状況下での困難な業務 | 業務の困難度、社内での立場等 業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援等" |
複雑困難な新規事業、会社の建て直しを担当する業務 | プロジェクト内での立場、実行の困難性等 業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援等" |
出 来 事 | 負荷の程度を評価する視点 |
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労働災害で大きな怪我や病気をした。 | 被災の程度、後遺障害の有無、社会復帰の困難性等 |
重大な事故や災害の発生に直接関与した。 | 事故の大きさ、加害の程度等 |
悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした。 | 事故や被害の程度、恐怖感、異常性の程度等 |
重大な事故(事件)について責任を問われた。 | 事故(事件)の内容、責任の度合、社会的反響の程度、ペナルティの有無等 |
仕事上の大きなミスをした。 | 失敗の程度・重大性、損害等の程度、ペナルティの有無等 |
ノルマが達成できなかった。 | ノルマの内容、達成の困難性、強制性、達成率の程度、ペナルティの有無等 |
異動(転勤、配置転換、出向等)があった。 | 業務内容・身分等の変化、異動理由、不利益の程度等 |
上司、顧客等との大きなトラブルがあった。 | トラブル発生時の状況、程度等 |